COLUMN | 大家さん・投資家向け
築古の戸建てやアパートを持つ大家さんの間には、「火災保険はかけずに、施設賠償責任保険だけに入る」という考え方があります。
結論から書くと、無借金で買っていて、建物にまだほとんどお金をかけておらず、万が一なくなっても土地として売れる物件であれば、この選び方には筋が通っています。
ただし、条件が一つ外れるだけで答えは変わります。この記事では、この考え方が成り立つ理由と、崩れるケースを順番に整理します。
築古の保険を考えるとき、守りたいものは大きく3つに分かれます。
このうち建物と家賃は、失っても、その物件の値段と家賃の範囲で損が止まります。取得費の小さい築古であれば、自分のお金で受け止められる大きさのことも少なくありません。
一方で賠償は、物件の値段と関係なく膨らみます。瓦が落ちて通行人がけがをした、階段が抜けて入居者が大けがをした、という事故の賠償額は、その建物をいくらで買ったかとは無関係に決まります。
保険は、めったに起きないけれど、起きたら自分では払いきれない損に備えるためのものです。この物差しで3つを見ると、「施設賠償だけ」という考え方の骨組みが見えてきます。
民法717条は、建物などの設置や保存に欠陥があって他人に損害を与えたとき、まず占有者(借りて住んでいる人など)が賠償の責任を負い、占有者が必要な注意をしていた場合は所有者が賠償しなければならない、と定めています。所有者の側には、注意していたから責任を免れるという定めがありません。
屋根や外壁、階段の傷みを入居者が直すことはまずありませんから、古い建物の事故は所有者の責任になりやすいと考えておくのが安全です。施設賠償責任保険は、こうした賠償に備える保険です。
失火責任法は、失火の場合には民法709条(不法行為による損害賠償)を適用しない、ただし重大な過失があるときは別、と定めています。うっかりの火事で隣の家を焼いてしまっても、重大な過失がなければ、隣家への賠償責任は原則として生じません。
「隣に迷惑をかけたときのために火災保険に入る」という理由は、築古の保険を考えるうえでは、思われているほど重くありません。
失火責任法が外しているのは不法行為の責任で、契約上の責任(債務不履行)には及ばないと解されています。入居者が失火で借りている家を焼いた場合、入居者は貸主に対して、借りた家を元の状態で返せないという契約上の責任を負います。
そこで賃貸借契約の条件として、入居者に借家人賠償責任保険へ入ってもらいます。入居者が貸主に対して責任を負う火災であれば、この保険から貸主への賠償が支払われる形になります。支払われる額は、入居者が入る保険の契約内容によって変わります。
取得費の小さい築古であれば、全焼したときの最大の損は、取得費と、焼けた建物を片付ける費用の範囲に収まります。建て替えができる土地なら、更地にして土地として売る道も残ります。
不動産投資家向けの質問板「楽待」を読むと、築古の戸建てについて、火災保険と地震保険はかけずに施設賠償責任保険だけにし、入居者には借家人賠償責任保険に入ってもらう、という趣旨の答えを2つの質問で書いている大家さんがいました。理由として挙げていたのも、保険は自分の資力で対応しきれないリスクに備えるものだ、という趣旨で、ここまでと同じ考え方です。
同じ質問板には、築古で法人契約だと何社かに断られた、法人名義を希望したら損害保険会社がほぼ全滅だった、築年数が進むと引き受ける会社が限られてくる、といった経験談も並んでいました。1年を超える契約では、外観の写真を保険会社に送って審査するという代理店もあったそうです。引き受けの基準は保険会社や代理店によって違い、古いから一律に入れないわけではないものの、築年数が進むほど選べる先は狭くなります。
高い保険料を払って守る対象が取得費の小さい建物だとすれば、割に合わないと感じる大家さんが多いのは自然なことです。
ローンが残った状態で建物がなくなると、土地を売っても借入が残ることがあります。融資を受けていれば、金融機関から火災保険への加入を求められることも多いはずです。この場合に考えるべきなのは、入るかどうかではなく、残債をまかなえる保険金額をどう決めるかです。
「取得費が小さいから自分で受け止められる」という理屈は、建物に手を入れた時点で前提が変わります。失うものが取得費だけではなく、取得費と改修費の合計になるからです。
買った時点では施設賠償だけで合っていても、改修を終えたら保険を見直す。この順番で考えるのが実際的です。
見落とされやすいのが、この「中途半端な損害」です。
賃貸中であれば、貸主には、住んでもらうために必要な修繕をする義務があります(民法606条。入居者の責任で傷んだ場合を除きます)。入居者に責任のない理由で一部が使えなくなれば、使えない割合に応じて家賃は減りますし、残った部分では借りた目的を果たせない場合、入居者は契約を解除できます(民法611条)。
一方、建物の全部が使えなくなれば、賃貸借はそれで終わります(民法616条の2)。全焼は「更地にして売る」という出口に進みやすいのに対して、半焼や、台風で屋根が傷んだようなケースでは、直して貸し続けるか、家賃を下げるか、手放すかの判断を、自分のお金を出しながら迫られることになります。
ただし、火災保険に入っていれば古い家の傷みがすべて直るわけでもありません。日本損害保険協会の説明では、自然の消耗や劣化、さび、腐敗、ひび割れなどによって生じた損害には、火災保険の保険金は支払われません。築古の場合、保険で直せる範囲はもともと限られている点もあわせて考えておく必要があります。
失火責任法は、自分が火元のときに重大な過失がなければ賠償の責任を外してくれる一方で、隣の家から火が燃え移ってきたときには、隣家に重大な過失がない限り、不法行為として賠償を求めることはできないことを意味します。放火の場合も、犯人が分からない、あるいは払えるお金を持っていなければ、実際には回収できません。
入居者の借家人賠償責任保険も、入居者に責任のない火災には使えません。施設賠償だけの物件がもらい火や放火で燃えた場合、建物の損はそのまま自分で持つことになります。木造の家が密集した地域の築古ほど、このケースの重みは増します。
「全焼しても更地で売れる」という出口は、建て替えられる土地であることが前提です。再建築不可の土地では、建物がなくなると土地の使い道が大きく限られます。
連棟住宅(長屋)は、隣の住戸と壁や屋根がつながっているため、火災でも解体でも、自分の住戸だけで話が終わらないことがあります。どちらも全焼後の出口が細く、建物を失ったときの損が取得費を超えて大きくなりやすい物件です。
一棟のアパートのように、1つの建物から複数の家賃が入る物件では、建物が使えなくなったときの家賃の穴が大きくなります。
上下階のある建物では、給水管からの漏水で下の部屋の家財を濡らしてしまうような事故も起きやすくなります。施設賠償責任保険は、契約によって給排水設備からの漏水が対象外だったり、特約で付ける扱いだったりすることがあります。戸建て1棟と同じ考え方を、そのまま当てはめない方が安全です。
財務省の説明によると、地震保険は火災保険とセットでしか入れず、保険金額は火災保険の保険金額の30〜50%の範囲(建物は5,000万円が上限)で決めます。火災保険をかけないと決めた時点で、地震保険もかからないことになります。
また、地震が原因で起きた火災の損害は、通常の火災保険では引き受けられていません。地震への備えを保険で持ちたい場合は、火災保険とあわせて地震保険に入ることが前提になります。
割引の面でも、1981年6月1日以降に新築された建物が対象の「建築年割引」は、それより前の、いわゆる旧耐震の建物には使えません。建物の評価が低い築古では、かけられる保険金額そのものも小さくなりがちです。旧耐震の築古にとって、地震は保険だけで備えきるのが難しいリスクだといえます。
日本損害保険協会は、国民生活センターの情報提供として「保険金を使って自己負担なく住宅修理ができる」と勧誘されてもすぐに契約しないよう呼びかけ、解約しようとすると高額な解約手数料を求められるといったトラブルに注意を促しています。傷んだ箇所の多い築古は、こうした勧誘を受けやすい立場にあります。
施設賠償責任保険は、単独で入れる保険会社もあれば、火災保険の特約としてしか付けられない会社もあり、名前も会社ごとに違います。契約の前に、対象になる事故、給排水設備からの漏水の扱い、支払限度額を代理店に確かめておくと安心です。
楽待の質問板でも、保険料の安さより、事故のときに動いてくれる代理店を選ぶべきだという声が複数見られました。
ここまでを物件の条件に置き換えると、次のように整理できます。
どちらの場合も、施設賠償責任保険には入っておく。今回整理した中で、ここだけはどの条件でも動きませんでした。賠償は、物件の値段と関係なく膨らむからです。
アキヤムスブは、大東市を拠点に、傷んだ空き家を直して活かす前提で買い取っています。私たちも、取得費の小さい築古の戸建てでは、施設賠償責任保険を軸に考えています。
ただ、手を入れて建物の価値が上がれば、守るものも変わります。保険は買ったときに一度決めて終わりではなく、改修や入居のたびに見直すものだと考えています。
保険をどうするかで悩んでいる築古を、手放すことも含めて考えたい方は、今の状態のままご相談ください。ご相談・査定は無料です。